最近のトラックバック

« Performer社のジョージ社長、ハマモトサイクルさんへご来店! | トップページ | ギヤ比を計算する »

リカンベント・レーサーのタイヤサイズについて考える

近年のロードレーサーは規格が絞り込まれていてホイール・タイヤの選択肢もかなり絞り込まれていますが、リカンベント・レーサーの場合はホイールサイズでさえ何通りもの選択肢があり、その選択には奥が深いモノがあります。

(グリッドに並ぶ多様なホイールサイズのレーサー達)
13110700

.
一般論として、「タイヤのサイズを考える」と言うと面倒くさがる人が多いと感じます。 「今のサイズは分からないけど、次も同じのでいい」とか、「自分はスポーツ走行やレースをしている訳ではないので関係無い」と称して考えるのを放棄してしまうのは簡単ですが、少なくとも今乗っている自転車のタイヤサイズに対して相対的に太いとか細いとかの選択肢があると思いますし、ロードレーサー・クロスバイク・マウンテンバイク・ミニベロ・リカンベントなどの車種を問わず、自分の命を預けて走る車体について正しく理解しておく事は大切です。
そしてそのタイヤを普段から正しく理解した上で運転する事によって、いざという時もより安全に正しくコントロールして事故などの危険を回避する事に繋がると考えています。

.

フルサイズのリカンベント・ローレーサーやミッドレーサーにおけるクリンチャータイヤの前/後サイズの組み合わせに関するポピュラーな選択肢としては、前:20インチ406/後:26インチ、前:20インチ406/後:650C、前:20インチ406/後:700C、前:20インチ451/後:700Cというものが挙げられます。 また、前後車輪が同径となるハイレーサーの場合は、前後共:26インチ、前後共:650C、前後共:700Cという選択肢が挙げられます。

近年のロードレーサーのホイール・タイヤサイズは700-23Cが大本命となっているようですが、リカンベント・レーサーのタイヤサイズについては自動車のF1みたいなレギュレーションによる絞込み政策は行われていませんし、また「定説」として確立されているモノも無いらしく、今なおオーナーによって小径(ロー&ミッドレーサーの前輪):20インチ406・20インチ451、大径(ロー&ミッドレーサーの後輪とハイレーサーの前後輪):26インチ・650C・700Cの各サイズから選び出した組み合わせが乱立している状況です。

リカンベントはロードレーサーと違って構造的な宿命として体重を掛けた立ちこぎが出来ないので、純粋な脚力だけでペダリングをこなす必要がある事から、瞬発力と加速性を重視した(と思われる…)26インチや650Cは今なお有効な選択肢であり、このサイズを選ぶメーカーやオーナーは数多く存在します(と言うか主流と言っていいかも)。
一方でロードレーサー用の主流と同じサイズを選ぶ事により(エンド幅の問題もありますが…)、ホイールやタイヤの選択肢が圧倒的に多いというメリットを享受できる700Cも魅力的です。

それぞれにメリット・デメリットがある中で何を重視するかによって選択が分かれるのですが、その中で盛豚が選んだのは前:20インチ451、後:700Cの車体でした。

13110701 

.

瞬発力やパワー・スタミナに乏しい盛豚の脚力では、スポーツ走行時の加速・スピード・スタミナの全ての項目を高いレベルで同時に満たす事は望めないので、全てを望むと全てのレベルが中途半端になってしまいます。 一台目のローレーサーを物色していた頃から取捨選択が必要だと自覚していました。
捨てたのは瞬発力と加速力の速さ(登坂力は論外…)、選んだのはタイヤ・ホイールの選択肢の多さとスタビリティ(安定性)の高さと巡航性(転がり抵抗の少なさ)です。

ホイールやタイヤの重量に関してはロープロファイルかディープリムかの種類の違いや銘柄によって大きく前後しますので、重量を気にしてサイズを選ぶ必要は無いと考えていました。 要は外径の大小の選択に絞り込んで考えたのです。

実は自動車での草レースやBSモールトンでの個人的な経験から、同じエンジン出力で同じパターン・グリップ力のタイヤで同じ剛性のホイールを使うならば、より大きなタイヤの外径を得る事が絶対的に走行性能を左右するという事をイヤというほど思い知らされて来たので(ブルベに出場して何百kmも走るのなら話は別ですが…)、迷わずに前:20インチ451、後:700Cのローレーサーを選びました。

  
後輪の700Cはともかくとして前輪の20インチについては、より選択肢の多い406ではなくむしろ選択肢が少なくてタイヤ外径が僅かに大きい451を選んでいます。
なぜ盛豚がこれほどまでにタイヤの外径の大きさに拘るのか? その理由は前述の通り色々とありますが、その中でも一番大きな理由はスタビリティ(安定性)の高さです。

.

走行中のタイヤには常に摩擦抵抗と転がり抵抗が掛かります。 これらに大きな影響を与えるのが車体重量とタイヤの形状で、オートバイや自転車は自動車よりもかなり軽いのでタイヤがたわみ難く、またカーブでの走行中は少なからず車体を内側に傾けるので、トレッド面(接地面の事ね…)が転がり方向だけで無く横方向にも丸くなっている為、トレッドの中でも具体的に地面に接地している部分はタイヤの幅よりも狭くなります。

(自動車と違ってタイヤのよりも接地面の幅は狭くなる…)
13110702 

そしてその自転車用タイヤの中でも、同じ幅のタイヤならば摩擦抵抗(グリップ力)は車輪が大きくて接地面積が大きいほどに大きくなり、転がり抵抗(失速し易さ)は車輪が小さいほどに大きくなります。

(タイヤの外径と接地面積の違い)
13110703 

同じ大きさの異物や路面の凹凸を踏み越える時に、車軸から地面に向かって引いた線と、異物や路面の凹凸との接触位置に向かって引いた線との角度が大きいほどに転がり抵抗は大きくなります。
これは車輪の大きさに対して相対的により大きい物を乗り越える時ほど抵抗が大きいせいであり(自分の身長に対してより高い壁を乗り越える方が大変なのと同じです)、下の図でも分かる通り車輪が大きいほどに角度が浅くなり、転がり抵抗は小さくなります。

(タイヤの外径と転がり抵抗の違い)
13110704_3

 

また、あまり知られていない事かもしれませんが、タイヤにはその性能を現す『タイヤの能力円』という概念が存在します。

これはタイヤのグリップ力に関して今日では確立された概念であり、盛豚自身も25年ほど前の峠小僧だった頃に走行感覚から体得していたものです(学術的概念として文献を読んだのはつい最近ですが…)。 今日の自動車やオートバイの世界では分析が進んでいて業界人だけではなく一般人の好事家にも認識が広まりつつあります。 もちろん雑誌・書籍を通じて一般人向けに広まりつつある理論は大雑把なレベルに過ぎませんが、それでも理解しているか否かで運転者の技量に大きな差が出て、それが安全の度合いにも直結すると言えます。

(タイヤの能力円)
13110706_2 

細かい要素を省いて大雑把に言うと、タイヤの最大摩擦力(最大グリップ力)は接地面を中心に、どの方向に向かっても一定の(等しい)摩擦力を発揮します。 グリップ力の限界までGを掛けてフルブレーキングしていると(①の方向)、コーナリングする時に発生する横方向の力に対応する余地が残されていないので、車体をバンクさせてもハンドルを切ってもアンダーステアが発生して曲がってくれません。
そこである程度ブレーキング方向のGを減らしてやると横方向の摩擦に対応する余地が発生するので、その範囲でコーナリングフォース(旋回性)が発生して車体が曲がり始めます(②の方向)。
そして減速が完了してブレーキレバーから手を離すと、摩擦力の全てを横方向に使う事ができるので最も安定したコーナリング状態となります(③の方向)。

コーナーからの立ち上がりの時にペダルをこぐと車体がカーブの外側に向かって膨らむのは、再び縦方向に摩擦力を費やすので横方向の摩擦力が不足して、(ホントは他にも色々な要素があるのですが、シンプルで分かり易いように細かい要素は省いて解説しています)ジリジリと横Gに負けて外側に向かって膨らむ訳です。

.

※…(余談になりますが、オートバイや自動車のスポーツ走行ではこのタイヤの能力円のG方向とその大きさをコントロールする目的で、コーナリング中にある程度アクセルを開けながら同時にある程度ブレーキを掛ける運転技術があります。 盛豚も自動車での草レースの他に、仕事で大事なお客様を乗せて自動車を運転する時に乗り心地をより良くする為に使う事がよくありました)

.

万が一カーブにオーバースピードで進入してしまった場合に、この概念を応用してブレーキとハンドリングと車体のバンク角のバランスを最も高いバランスでコントロールできれば、普通ならコースアウト・事故になる条件下でもギリギリで回避できるケースがあります。
更に言うならば普段からこのタイヤの能力円とGの方向のバランスを把握してコントロールしながら走っていると、同じ速度でもより高い安定性で走る事が出来ますし、タイヤの外径が大きいほど接地面積が大きくなるので摩擦力が大きくなり、より高い安定性が得られるという理屈です。

これは高速域や限界域になるほどに大きな差となって現れますので、高速域や限界域では自分の運転技術ではどうにもできないほどの差をもたらします。
こんな事を書くと「自分は公道で限界域の走りなんかしないよ!」と思われる人も多いでしょうが、大げさな例を挙げるならば直線で限界域には程遠い20~40km/h(どの数値に該当するかは車種にもよりますので…)で走っていても、横を走っている自動車がこちらを見落として急に交差点を左折して来たら、回避運動として理屈上は突然フルブレーキングと直角コーナリングを同時に要求されるのと同じですので、公道を走っている以上はいつ何時限界域に追い込まれるか分からないという訳です。

もちろん接地面積が少しでも大きい方がタイヤの能力円もより大きくなりますので、コーナリング性能は高くなりブレーキもロックし難くなって良く効きます。 リカンベントは乗車姿勢をあまり変えられないので、ロードレーサーに比べてパニックブレーキの時に後輪側に大きく荷重移動する事が出来ません。 だからこそタイヤの能力円の大きさがモノを言うのです。

ただでさえか細い自転車用タイヤですから、僅かな接地面積の差が限界域で大きな走行安定性の差になって現れるので、盛豚はスタンディングスタートからの一貫加速性や瞬発力を犠牲にしてでも、よりブレーキロックし難くてスタビリティも高い走行性能を追求して少しでもタイヤ外径が大きい物を選んでいる訳です(太いタイヤを選ぶのも一つの方法ではありますが…)。

.

とは言え、基本論としてはある程度タイヤの外径が大きいほどこうした恩恵がある一方で、車輪が大きくなるほどに重量や摩擦抵抗も大きくなりますので、それは同時に足に掛かる負荷が大きくなる事を意味します。 車輪の重量は慣性となって走行性能を後押ししてくれますので摩擦向上による抵抗の増大をある程度相殺してくれる一方で、加速時や上り坂では顕著な抵抗増大となって現れてきます。
何より車体の重量と相まって長時間・長距離を走っていると小さな負荷も疲労となって溜まります。 貧脚なクセに負荷の大きい20インチ451と700Cの組み合わせを選んだ代償として、盛豚はその対策にトップエンドを捨ててまで中速→高速域の繋がり重視のクロスレシオのカセットスプロケットを選び、更にロングストロークのコンパクトクランクを組み合わせて、小刻みなシフトチェンジをしながら二段・三段と分割加速で走る事を余儀なくされています。

.

一般論として物には限度と言うモノがありますから、車輪の大径化によるメリット・デメリットにもどこかに境界線が存在する筈です。

ロードレーサーにおけるこの境界線は700Cから上に存在している様ですが、リカンベント・レーサーの大径ホイールにおける選択肢の多さはと大本命の不在の理由は、その境界線が26インチ&650Cと700Cの間か700Cそのものに存在するせいではないかと考えています。

.

« Performer社のジョージ社長、ハマモトサイクルさんへご来店! | トップページ | ギヤ比を計算する »

リカンベント」カテゴリの記事

自転車」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
また詳しく説明ありがとうございます。
タイヤ大事ですね。
ロードだけの時はこれって銘柄が決まると
余りかえませんでしたが、MTBで遊ぶようになって
天候別、フィールド別のタイヤ在庫が増えて
部屋が自転車屋さん状態ですf^_^;
でも、替えると走行性能が変わるのが楽しいんです。

盛豚さん、いつにも増して素晴らしい内容ですな。お見事。
「タイヤの能力円」なる言葉は初めて見ましたが、感覚的/経験的には理解していました。あらためて絵や文字にしていただくと、とても分かりやすいです。

よくよく考えたら、筑波パープルシャドウのゴッドハンド・城島 俊也も言ってましたね。

私は、ローリング歴が長かったせいか、『能力円』についての理論は知りませんでしたが、体験的に感覚で理解していたように感じます。
そして、タイヤのグリップを考える際、私はよく接地面の面圧を意識します。
確かに接地面積の大きい方が摩擦抵抗も大きくなりますが、単位面圧が小さくなればグリップ力は逆に落ちます。
オフロード車はファツトなタイヤがイメージですが、クロスカントリーに於いては、グリップ力を稼ぎ走破性を高めるため敢えて盛豚さんの考察の通り直径の大きい、そしてナローなタイヤをチョイスします。
車体の軽い自転車で面圧を高めようと思うのはなかなか大変ですが、コーナリングでGが掛かった時には重要なファクターとなるでしょう。
ただ悪戯に細いタイヤを選択し面圧を求めると、下りワインディンクなどハイスピードのコーナリングでグリップが破綻した時には、その煽りでハイサイドは免れません。
ドライ・ウエットなどのコンディションも含め様々なステージを想定する必要がありますが、完全にオールマイティーに高性能を発揮するタイヤなど存在しないので、自分の求める走りに少しでも近いサイズやコンパウンドをチョイスするしかありません。
とはいえ選択肢が豊富にないサイズのタイヤとなると、さらに妥協しなければなりませんね。
う~ん、奥が深い・・・

>山ちゃんさん
.
今晩は。 今回も長文にお付き合い頂いてありがとうございました。(笑)
私は特定のテーマについて雑誌記事を鵜呑みにした頭でっかちにならない様に、その業界の定説に拘らずに色々な文献や口コミだけでなくや経験を通して蓄積したモノを多角的に分析・整理して、その考察を要約・再認識する目的でブログを書く事がしばしばあります。 そういう時は考えを纏めながら書くので、かなり大雑把に書いているのに恥ずかしながらこうした長文になりがちです…。(汗)
天候やフィールドによってタイヤを使い分けてられるという事は、ハッキリ言ってエキスパートのレベルですね。 さすがと言わせて頂きます!

>ゆっきょさん
.
恐悦至極に存じ上げまする! 今回は図を作るだけでも二時間以上費やしました。(苦笑)
ご指摘頂いて読み返してみると、なるほどゴッドハンド城島さんが最終戦のハチロク対決を観戦しながら仰られてますね。 いやぁすっかり忘れてました!
城島さんといえば「グリップを『使う』」という視点と「俺にとってラインは『手段』ではなく『結果』だ」という言葉のインパクトが余りに強かったもので…。
「タイヤの能力円」という言葉と基本概念図が確立されたのはそう昔のハナシでも無いみたいですが、多少走り込んだ人なら誰もが感覚的に体得してぼんやりと分かっていると思います。 もちろんゆっきょさんでしたら今回割愛した細かい変動要素についてもご存知かと思いますので、ぜひまた別の機会にでも城島さんを交えて三人で心ゆくまで語り合いましょう!(笑)

>えむきゅうさん
.
我々の世代で多少なりとも走り込んだ経験があれば、誰もが『タイヤの能力円』という言葉は知らずとも感覚的に理解できているかと思います。
今回「タイヤについて」は451だの700Cだの愚直なまでに大鑑巨砲主義みたいな選択をした根拠に直結する部分だけを抜粋して大雑把に書き出しました。 面圧・駆動・変動荷重とバランス・バンク角・対地キャンバー(四輪ですが…)・ロールセンター(四輪ですが…)・限界摩擦超過時の挙動パターン・etc・etc…、もっともっと書きたかったのですが、本気で書いたら文章が30~50倍の量になってしまうので割愛しました(あぁ、書きたい…)。
.
仰る通り面圧は大事ですよね。 私も特にWRCのスウェディッシュラリーの映像と愛車のフロントタイヤを通して学びました。 自分の脚力では負荷の大きさを持て余す700Cを選ぶにあたって、その代償は決して小さい物ではありませんでした。 まぁそのお蔭でクランク長の事に気付くのが早かった訳ですが…。(笑)
乗車姿勢を変え難いローレーサーですので面圧をコントロールするのは容易ではありませんが、腰とみぞおちと肩の使い方で少しずつ重心をコントロールできる様になってから、その辺りも徐々にコントロールできる様になってきました。 その辺も含めて考えると、foxさんのタイヤサイズ選びを見る度に「(直径も幅も)なるほどな」と思う事がありますが、私の脚力では真似するのが困難ですので、今しばらくは面圧と駆動効率とコーナリングフォースの絶対値について多少は我慢しときます。(笑)
また私は限界域でのコントロール性についても感心が高いので、いずれタイヤの銘柄についてもビットリア・オープンコルサを試してみたいと思っています。 大き過ぎる負荷という代償はありますが、こうしてタイヤの特性に応じて多くの選択肢の中から選べるというのも700Cのメリットだと感じています。

この記事へのコメントは終了しました。

« Performer社のジョージ社長、ハマモトサイクルさんへご来店! | トップページ | ギヤ比を計算する »

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ