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M5用に製作した加工シート

M5の仕様変更の時に少し書きましたが、シートを加工しました。

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※…(長文です)

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リカンベントの一般的なヨーロピアンシートには大きく二種類あり、一方は全長約75cmのミッドツアラー&レーサー用シート・もう一方は全長約80cmのローレーサー用シートだと聞いた事があります(更にMサイズとかLサイズとかの細かな分類もあるようですが、その辺は省略します…)。

三年前に中古のChinaMascotProducts LOW-RACERを手に入れた時には後者が取り付けられていたのですが、手に入れて数日後に100km走行へ出かけた時からこのシートには違和感を感じていました。
スタンディングスタートからの加速でも中間加速でも、フル加速をすると10秒そこそこで息切れしてしまうのです。

この頃はライダーの体力の問題か走り方が悪いせいだろうと思って色々と試してみた結果、6割程度の加速力にセーブして加速を持続させるか、もしくは10秒毎に足を止めて息を整えつつ二段・三段の分割で加速するより他になかったのですが、当時は車体側に対して特に疑問を感じずに乗っていました。

(後で他にも色々と問題点が発覚したんだけどね…)
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やがてYおかさんのM5に乗らせて頂いて新境地を体感したのを機にパワー効率が高いポジションを追求し始めて、同時にロールセンター・ハンドリング・トラクション・他の挙動特性をコントロールする手段としても利用するようになりましたが、これらはあくまで車輌を中心としてライダーを部品の一つに過ぎないと見なしたものでした。

(モノブレードフォークのままだけど、欠陥は解消できたよね…)
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これにより一定の効果は得られたものの息切れの問題は解決しないまま、その一年後に中古のライトニングM5ローレーサーを手に入れる事になり、この時に手に入れた個体が一つの転機をもたらす事になったのです。

このライトニングM5には純正シートではなく、十年近く前に限定販売されたらしいLOROワールドリカンベンツ・オリジナルグラスファイバーシートが取り付けられていました。
このシートはローレーサー用ではなくHPV社のミッドレーサー用シートを叩き台として製作されたと聞いた事があるのですが、確かにミッド用ベースなだけあってローレーサーには合わない寸法・形状をしています。

その為、入手当時のM5は背もたれ側のマウントに高下駄を挟んで調整してあるなど、形状が合わないシートをフィッティングさせるべく前オーナーが苦心された跡が残っていました。

(シートとフレームの間に10cmもの高下駄が…)
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冒頭にも書いたようにリカンベントの一般的なヨーロピアンシートには大きく二種類あり、メーカー毎に寸法・形状に若干の違いはあるものの数値は概ね、

①シート全長 : 約75cm~80cm
②シート肩部仰角 : 約145°~150°(つまりライダーの背中の屈折角 : 約30°~35°)

この範囲の物が主流のようです。 特にこれまで見てきた実車ではミッドレーサー用は、

①シート全長 : 約75cm
②シート肩部仰角 : 約150°(ライダー背中の屈折角 : 約30°)

またローレーサー用は、

①シート全長 : 約80cm
②シート肩部仰角 : 約145°(ライダーの背中の屈折角 : 約35°)

の物が多い傾向がありました。

(①が全長、②がシート肩部仰角ね…)
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M5に付いていたシートは

①シート全長 : 約71cm相当(先端形状が凹んでいなくて通常の形状だった場合)
②シート肩部仰角 : 約150°(ライダーの背中の屈折角 : 約30°)

と、一般的なミッドレーサー用よりも更に5cmも短いシートで全長が不足しています。 更にシートクッションを取り付けてシート角を調整すると、肩部とヘッドレストの対地角度が約50°と寝過ぎてしまい、平衡感覚が掴み難くなってしまいました。
しかも走りながら頭部を支える為に首の胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)に負担が掛かって毎週乗り続けていないと筋肉痛になるなど、「このシートはダメだからさっさと交換しよう…」というのが第一印象でした。

(毎週乗っていないとこの青い部分が筋肉痛になる…)
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ところがいざ一発目の遠出に出てみると、胸鎖乳突筋の筋肉痛とは裏腹にある効果が得られている事に気付きました。

いくら飛ばしてもなかなか息切れしないのです…。

肩・頭部の角度が寝過ぎている為に平衡感覚が掴み難い事や胸鎖乳突筋の筋肉痛などのデメリットもありましたが、その一方で呼吸効率や空力の高さなど過去に感じた事がないメリットもあったので、その原因を突き止めるべくシート交換はひとまず棚上げにして様子を見る事にしました。

(シートが短過ぎて肩と首を支えきれていない事が分かります)
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こうして操縦性の悪さと格闘しながらLOW-RACERやLYNXXと乗り比べて観察すること一年間。 シートに関する十分なデーター取りができました。
そしてそれらを踏まえた上でM5の手直しに着手したのですが、流石にワンオフに対応できる技術・ノウハウのある業者に心当たりはありませんし、何より予算を考えるだけでもゾッとします…。

それにシートシェルは背面の中空フレーム部が長過ぎると削る事ができませんが、短い分には都合の良い形状のエクステンションを製作して足せば解決します。
またM5に取り付けられていたシートシェルは、腰の部分の横幅がローレーサー用よりも広い上に凹みの形状がやや深めになっていてホールド性が良く、ベースとしてはなかなかに都合の良い部分もあります。

色々と迷いましたがどのみち既存のシートで求める形状の物は存在しませんでした。 仕方がないので今回は見た目を度外視してコストと費用対効果だけを追及し、従来のシートを加工する事にしました。

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尚、加工といってもエクステンションを取り付けて全長不足を補い、形状補正はパッドを貼る事のみでクリヤーして、シェル本体の切削加工はせずに済ませる方向で進めます。

目指す仕様は

①シート全長 : 約76cm相当以上(先端形状が凹んでいなくて通常の形状だった場合)
②シート肩部仰角 : 約160°~165°(ライダーの背中の屈折角 : 約20°~15°)

です。

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先に申し上げておきますが、今回製作した加工シート(この個体そのもの)についてはとても万人向けとは言えません。 特にシート肩部仰角の広さ(ライダーの背中の屈折角の少なさ)とその形状については操縦性のマージンと引き換えにパワー効率を追求していますので、初めて乗った人は「こんなに乗り難いポジションは理解できない」と思われるであろう領域まで突き詰めています。

ただし程度を多少控えめにして、「ヒント」とか「手がかり」とか「方向性」だけを半分以内で愛車に取り入れてみれば、「今までのは一体何だったんだ…」と感じるほどにパワー効率が上がって、疲れ難く楽に速く走れるようになる効果がある事だけは確かです(具体的な数値データーについては後述します)。

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まずはシートの全長不足を補うエクステンションを製作します。 ホームセンターで2mm厚アルミ板を買って来てシート肩部の縁に合わせた形状に切り出し、ハンマーで軽く板金してラウンドさせつつ後ろに反らせた形状を出して、従来よりも上にオフセットしたヘッドレストと重ねてボルトで固定します。

これでシートの全長は76cm相当(先端形状が凹んでいなくて通常の形状だった場合) になりました。

(銀のシートに銀のエクステンションだから、黙ってりゃバレない!?)
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次にホームセンターでクッション材5mm・10mm・15mm厚の各サイズを調達して…、

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図のような形状に変更すべく、青い部分と赤い部分に貼り重ねていきます。

(概念図)
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できました。

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シートシェルと一緒にクッションも従来のミッドレーサー用を継続使用しています。

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中身はこんなカンジ。

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出来上がったので何故このような形状にしたのか、その理由と目的と効果と実測データーについて述べてみたいと思います。

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冒頭でも述べたように盛豚は常々ローレーサー用シートの形状について、息切れしてしまうほどの呼吸効率の悪さに疑問を感じていました。

一般的にヨーロピアンスポーツモデルのリカンベントは、シートポジション・リクライム角が深くてより仰向けになる傾向があります。
その為直立歩行をするヒトの生活習慣ではあまり馴染みがない姿勢での走行・移動を強いられるので、平衡感覚・垂直軸感覚を多少なりとも確保し易いように安全マージンを確保する意味で、シート肩部とヘッドレストの対地角度を多少なりとも直立姿勢に近付けておかざるを得ず、一般的な市販車は概ね60°~65°付近に設定されている傾向があります。
これについてはある程度止むを得ない事だとは思います。

また、乗り物を運転するスポーツではシートにライダーのホールド性をある程度追求せざるを得ず、その答えがバケットシート(リカンベントの場合は前後方向のみで横方向のバケットはありませんが…)なのはよく理解しています。

しかしマラソンなどの陸上競技を始めとした一般的なスポーツにおいて、どこの世界にヒトが背中や首をを30°以上も屈折させた息苦しい猫背の姿勢でパワーとスピードを競う種目があるでしょうか?

下の図を見て下さい。 レーサーではなくコンフォート系寄りのツアラーであるLYNXXの乗車姿勢を、そのまま直立させてみると如何に背中や首が前に曲がって屈んでいるかが分かります。

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それでもまだ背筋は比較的伸びていて首が前に屈んでいるといったカンジですが、ローレーサーになると背中がもっと屈んでしまい如何にも息苦しそうです。

(ジャージの背中側が黒くて見え難いですが、LYNXXの時よりも背中が猫背になっています)
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今度は他所で借りてきた海外のレースでの画像ですが、このアメリカンハイレーサーもやはり息苦しそうなポジションで乗っています。

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せっかく手を入れるからには、息苦しさ即ち呼吸効率の悪さを解消してマイナスをゼロにするだけではなく、更に呼吸効率を良くして一気にプラスに転じる事を狙います。
その為には具体的に何をどうしたら良いのかについては、一年間のデーター取りによって既に分かっていました。

結果を先に言うとヘッドレストの首筋パッド以外は試行錯誤も何もなく一発で正解の形状が出せたのですが、目指したのはマラソンランナーのフォームのイメージに近い上半身の姿勢を実現できるポジションです。

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一年間に亘るデーター取りによって前屈み姿勢なローレーサー用シート形状は、下の図に表した通り大きく四つの弊害をもたらしている事を突き止めました。

①喉の気道が狭い(対策:首を伸ばし気味にして気道を広げる)

②肺のスペースが狭い(対策:背筋を伸ばし気味にして肺のスペースを広げる)

③腰が曲がっていて横隔膜が動く範囲が狭い(対策:腰を伸ばして横隔膜が動く範囲を広くする)

④腰が曲がっていてシートとのホールド性が悪く、ペダリング中に腰や体がシート上でブレる(対策:大臀筋の膨らみと腰裏のくびれに沿うようにシート形状を変更してホールド性を確保する)

(脚が上死点になっている場合の図)
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②については背筋を伸ばす事で対策します。
概念図で示した赤い部分の嵩上げによって解決しますが、やればやるほど呼吸効率が上がるのと裏腹にシートがバケットシート(ライダーのホールド性が高い) → フラットベンチシート(ライダーのホールド性が低い)へと変わってしまうので、程度の見極めが大切です。

③・④については②に加えて腰を伸ばす事で同時に対策します。
概念図で示した青い部分の嵩上げによって解決します。 ローレーサーに乗るほどのサイクリストならば多かれ少なかれ脚だけでなく大臀筋(だいでんきん…、お尻の筋肉の事ね…)も発達している筈ですので、直立姿勢を横から見るとお尻からウェストにかけて弧を描きながらくびれている筈です。 そこでシートをある程度この形状に沿ったカーブの付いた形状にしてやる事によって、腰を伸ばしつつホールド性が高い状態を作り出すのです。

※…(この②と③については、もしかしたら「ホールド性はシート肩部にライダーの肩甲骨を押し付けて、その反動でペダルを蹴り出すペダリングをしているので、ここをフラットにしてしまうと踏ん張りが効かずパワーロスになり逆効果である」という意見を持たれている人もいるかもしれません。 ペダリングは人それぞれですが、盛豚はペダルを踏むのではなく回す事でペダリングをしていますし、脚の動作の要はまさしく腰ですので腰のホールド性を重視しています。 ですからシート肩部にホールド性は求めていないので呼吸効率を優先しています)

①については平衡感覚を確保する為に必要なシート肩部&ヘッドレストの対地角度との兼ね合いがありますので、やり過ぎは禁物です。
おそらく盛豚のM5に乗った人が最も抵抗感を感じたのはこの部分ではないでしょうか? 盛豚は一年間のデーター取り走行である程度寝かせた角度に慣れた為、この角度でも平衡感覚を掴めています。 また前方視界についてもロードの上目使いとは逆方向の下目使いによって、必用十分な前方視界を確保できています(サングラスを着けて乗っていると、傍目には空を見上げているように見えるかもしれませんが…)。

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出来上がった加工シートの乗車姿勢を見ている内に、「何かどこかで見た事があるような気がするなぁ…」と思ってNETで探してみたら、2009年頃にヨーロッパのレースで活躍していたらしいM5のレーサーの画像が出てきました。

偶然とは言えよく似たポジションに見えますが、このレーサーはM5社純正シートを使用しているので、座ってみたら背中は市販品のローレーサーシートなりに曲がっているでしょうね…。

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因みに以前アワーレコードをマークしたM5カーボン・ハイのポジションは、もっと凄い事になっていました…。

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そうそう、大事な事を書き忘れていました。

盛豚は全力走行時に呼吸回数がMaxで約84回/分になりますが、従来のローレーサー用シートを付けたChinaMascotProducts LOW-RACERでは一回あたりの呼吸量が950ccです。 これに対し今回製作した加工シートを付けたM5では一回あたりの呼吸量が1900ccと倍増していました(呼吸量が変わっても呼吸回数は変わりませんでした)。

※…(これらは実測値です)

これは「飛ばしても息が上がらなくなった」という理由の一端が垣間見えるデーターだと思います。
これを自動車の例に置き換えて大雑把に例えると、「排気量が倍になった」もしくは「ターボのブースト圧が倍に上がった」みたいなものですが、我ながら走っていて「そう大袈裟でもない例えだよな…」と感じています(より厳密に言えば「同じエンジンで吸気リストラクターがあるか無いかの違い」みたいなものなのですが…)。

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ちなみに呼吸効率に寄与した要素の効果比率を主観的に数値化してみると…

・首を伸ばした事による気道の改善効果 : 40%

・背筋を伸ばした肺のスペースの改善効果 : 30%

・腰と背筋を伸ばした事による横隔膜の動きの改善効果 : 30%

といったカンジです(機械的な測定値ではなく多分に感覚的なものです…)。

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少なくとも「シート一つで今までと同じ速度をより楽に出せるようになった」という事は間違いありません…。

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