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『RALLY CARS 11』(三栄書房)

後に〝理論上 最速のグループBマシン″という微妙な代名詞で呼ばれる事になるフォードRS200は、実戦投入されて間もなくグループBカテゴリーの廃止が決定されてしまった事から、結実する時間を与えられる事なくWRCの舞台を去って行きました。

実績と情報が少な過ぎた事や86年ポルトガルラリーでの事故のせいもあって、このマシンについては色々と誤解されてきた節もあるようですが、むしろグループBラリーカーの中では真っ当な部類に入るとさえ言えるマシンである事については、意外と知られていないようです。

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フォード社はグループBラリーの〝クワトロ・ショック″に最も振り回された自動車メーカーの一つだったと言われています。 何しろFR+ターボの新型車輌開発が最終段階まで進み、プロトタイプによるタイムアタックまで行われていたにも拘らず、「今後は4WDでなければ何をやっても負けるという事が確定した」という現実を突きつけられ、もう一度一からプロジェクトをやり直さなければならないという、「双六で言う〝振り出しに戻る″を食らった」訳ですから。

ここまでなら他社にも似たような例はありますが、同社の場合はそれでも再び巨額の予算を注ぎ込んで一から出直して開発した新型車のホモロゲーションモデルを200台生産。
やっと認可を取得してワークス体制で実戦投入したフォードRS200でしたが、一部販売したRS200のユーザーであるプライベートチームが、RS200のデビューから二戦目のポルトガルラリーで人身事故に巻き込まれてしまい、その二ヵ月後には同年限りでのグループBカテゴリーの廃止が発表され、ホモロゲーション用に生産したRS200の大半を処分価格で叩き売らなければならなくなってしまったのですから、〝踏んだり蹴ったり″以外の何物でもありませんでした。

※…(案の定、同社はそれから何年もの間WRCへの取り組みに対しては、フルワークス体制ではなく限定的な姿勢を取り続ける事になります…)

(完売しても大赤字なのにこのほとんどを処分価格で叩き売るなんて悪夢ですな…)
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アウディ・クワトロを除く当時の4WDグループBラリーカーは、市販車輌に対する直接的な宣伝効果を狙った自動車メーカーによる言わば〝欺瞞″車輌が主流でした。
これらは1500ccクラスのFF市販乗用車のキャビン(メーカーによっては+α)を流用してその前後にパイプフレームを組み、市販モデルとそっくりなペラペラのFRPカウルを上から被せて市販乗用車のフリをして、その下には市販モデルとは関係のない純競技用の1800cc~2000ccターボエンジンをミッドシップに搭載し、その巨大なパワーをこれまた市販モデルとは関係のない純競技用の4WDシステムで走らせています。

これに対してフォードRS200の場合は、市販車輌とは直接繋がりの無いイメージリーダー戦略を取っています。
コストの都合上フロントガラスドアとテールランプだけを次期型として開発中だったフォード・シエラからパクって来たものの(これだけでもバカにならないほど予算が浮いたそうです…)、外観の総合的なデザインはとにかく独自の物にするという方針が貫かれました。

(個人的には「グループBラリーカー最も美しいマシン」って037じゃなくてコレです…)
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そしてここからが大事なポイントなのですが、シャーシの基本構造は他社とは違って市販車輌のキャビンだけを流用するのではなく、キャビンを含むモノコックを新規に設計されています。
このキャビンの特徴は予算の凄さも然る事ながら、前後のオーバーハングも含めて多少省略されているとはいえ、一般的な乗用車と同様にモノコックシャーシという構造体を維持しており、キャビンやキャビン+αしかない他社のマシン達とは明らかに一線を画していた事が挙げられます。
それは後に「自動車メーカーとしての良心を捨てなかった設計」だったと言われています。

(〝理論上 最速のグループBマシン″意外にも〝メーカーが良心を捨てなかったグループBマシン″という別名もあるくらいです)
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そして無謀な軽量化を選ばない代わりに、ミッションをエンジンから分離してキャビンの前方に搭載しトランスアクスルで接続・駆動する事で、ライバル車達にはない理想的な重量配分を武器に闘う事を選びました。 この発想こそが後に〝理論上 最速のグループBマシン″と呼ばれる所以になったとされています。

この結果、RS200は車輌レギュレーションで定められた最低重量まで軽量化できず、ライバル車に比べて車重が100kg以上重たいままでしたが、既に開発が完了しつつあった時期型エボリューションモデルでさえ、やはり良心を捨てた無謀な領域までの軽量化を行わなかった事が後に明らかにされています。

(RS200が〝逆トランスアクスルレイアウト″なんじゃなくてこっちが元祖。 日産GT-Rがこれを模倣しただけだよ。 失礼だろう…)
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言葉で表せば同じ「グループBラリーカー」に入るのかもしれませんが、製造した自動車メーカーがその責任と良心を抱き続けていたのかそれとも捨てたのかでは、出来上がるマシンも走らせた結果も大きく異なります。

事実、WRCのグループB時代ではワークス・セミワークスを合わせたドライバー達の事故で、ランチア社が3人のドライバーを死に至らしめ、プジョー社でも1人のドライバーが三ヶ月間生死の狭間をさまよう意識不明の重態に陥って復帰に一年以上を要しているのに対して、アウディ社に比べれば活動期感が短かったとはいえフォード社はアウディ社と同様にそうした犠牲者が出ていません。
'86年ポルトガルラリーで観客が起こした事故に巻き込まれる形でプライベートチームのRS200が関わり、観客に4人の死者と40人以上の重傷者が出たのは事実ですが、これは運営側と観客の問題であってドライバーとチームは明らかに被害者です。

※…(この'86年ポルトガルラリーでの事故の件については、本文中に特集記事が掲載されていますので、WRCやその歴史やグループBラリーカーに興味がある方は是非読んでみて下さい)

(運営と観客のマナーの酷さに全てのワークスチームの怒りが爆発! WRC史上全てのワークスチームが途中でボイコットしたのは、先にも後にもこの時だけでしょう…)
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グループBラリーで犠牲者が続出した悲劇と失敗の要因にはあまりにも多くの要素が複雑に絡んでいたと言わざるを得ないのですが、その中でも非常に大きな要因として「レギュレーションの車輌最低重量規定の設定数値が適切でなかった事」が挙げられると考えられます。

事実、FIA(当時のFISA)や多くの有識者達は明言こそ避けていますが、こうした教訓から後の時代にレギュレーションの見直しを繰り返してラリーカーのパワーを抑制するのと並行して、車輌の最低重量規定を引き上げて軽量化を抑制する方向へと舵を切りました。

その結果メーカー各社は「軽量化できないのであれば、無駄なパーツを外して軽くなってしまった分は補強を入れて重量合わせをしよう」と、重量面での余裕を強度や安全対策に活用する方向性を見出したので、近年のWRCでは競技車輌が4~5回転するなど多少アクロバット的で豪快な事故が起きても、ドライバーに死人が出る事はほとんどありません。

※…(今のWRCは元締めがヘンリ・トイボネンと同世代のミッシェル・ムートンさんだから、安全対策にはウルサイという事もありますしね…)

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今にして振り返ってみると、80年代前半に登場したターボチャージャーやスーパーチャージャーといった過給器システムと、4WDという駆動システムの分だけ本来ならば最低車重のレギュレーションを重くするよう見直すべきだったところなのですが、そうした認識や対応が追いつかなかった事が原因で一部のメーカーは何が何でもレギュレーション一杯までギリギリの軽量化を進めてしまい、WRCでは脆弱な構造の車輌がとんでもないパワーで走るようになっていきます。

でも、どれほど異常な事態に陥っていたのかを一般の方に向かっていくら言葉で説明しても、ピンと来ないのでしょうね…。
「昔は車遊びが好きだった」というオジサン世代くらいにならお分かり頂けるかも知れませんが…、

具体的な例を挙げるとしたら「86レビンをキャビン以外は切断してセミパイプフレームにしてフル軽量化して、外装はペラペラのFPR製ドアとフェンダーだけというハリボテにして、窓をフロント意外はアクリルにして、500馬力仕様のターボエンジンを搭載して、4WDに改造したマシンで峠を全開で走れますか?」みたいなモンですかね…。
そんな物で峠を走ってどこかに刺さる事を想像したら、例えオーバーハングの手前までだとしても、モノコックシャーシがある事の有り難味がお分かり頂けますよね?

※…(そりゃあ車重1tちょいで600馬力のキャブターボを搭載したS30Zなんていう、どう考えてもアタマがオカシイってクルマで走ってる人もいましたけど、それはゼロヨンで2~3車線使って何とか生きてゴールさえできればいいみたいな世界でしたから、それはまた別のハナシって事で…sweat01

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グループBラリーカーが一線を越えるか越えないかのギリギリボーダーライン…。 個人的にはRS200ってそんな一台だったんじゃないかなぁと思います。

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グループBラリーやこの本の内容に興味のある方は、書店で手に取ってみて下さい。

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