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未来への遺産Ⅱ (後編)

優れたリカンベント・レーサーであるにも拘らずForce5は発売から僅か四年で廃盤になってしまいました。 その背景にある物についてはアメリカンハイレーサー・メーカー各社のH.P.を読み解いていく事でヒントが得られます。

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まずはメーカー各社のH.P.から読み取れる「Force5が生み出された時代背景」について掘り下げてみたいと思います。

RANS社はランディー・シュリッター氏によって1974年にアメリカはカンザス州でセイル・トライク(日本では〝ブロー・カート″という呼び名の方が通じ易いかもしれませんね)のメーカーとして起業しました。
やがて同社のセイル・トライクには風を受けて帆走を楽しんだ後に自走で戻って来れるような、自転車と同様のクランク周りとチェーン駆動システムが取り付けられたペダル漕ぎ式の物が誕生し、それから長い年月を経て帆は航空技術の礎に、ペダル漕ぎの駆動システムは自転車技術の礎となって、同社の主幹事業は小型飛行機と自転車に発展していきます。
そして自転車部門ではリカンベントやクランクフォワードなどが作られて、同社は自他供に認めるアメリカンリカンベント・メーカーのパイオニアとしての地位を固めました。

(以前ブロー・カートが欲しかった時期があったんだけど、関西には茨城県や千葉県の太平洋岸みたく安定した風と平地に恵まれた土地が見当らなくて諦めたんだよね…)
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同社の自転車事業は1990年代から2000年代にかけて飛躍的な発展を遂げており、この時期に自転車部門で設計の仕事に携わっていたマーク・コリトン氏達が2001年に独立・起業したのが、後にアメリカンリカンベント・メーカーの雄の一つとなるBacchetta社でした。
同社はRANS社での経験を応用して売り上げを稼ぐ為のベーシックグレードでコピーモデルを展開しつつ、独自に暖めていた前後輪にフルサイズホイールを持つデュアル・フルサイズレーサー『ストラーダ』と『Corsa』を開発・リリースします。

(Bacchettaの語源はイタリア語で「太鼓の〝バチ″」という意味です。 なるほどバチには大きなBBが付いてますな…)
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これこそが今日では〝ショートホイールベース+デュアル・フルサイズホイール+モノチューブ・スティックフレーム+オープンハンドル″という組み合わせのパッケージングで〝アメリカン・ハイレーサー″として知られる車種であり、それまでは前輪に小径ホイールを装着したモデルが主体だったアメリカンリカンベント界に大きな衝撃を与えます。

※…(今日では欧米でもM5社やOPTIMA社やZockra社などがこれに追随して高度なハイレーサーを開発・リリースしており、更にRANS社・Bacchetta社・Zockra社・他で開発に関与した、ジョン・シュリッター(ランディー・シュリッター氏の弟)夫妻が近年ハイレーサーメーカーのSchlitter社を設立するなど、世界的なリカンベント・レーサーの流れはハイレーサーへとシフトしつつあります。 前後にフルサイズホイールを備えたハイレーサーの有効性を広く知らしめ、こうした流れに先鞭を付けたBacchetta社の功績は非常に大きいと言えるでしょう)

更に2003年にはやはりアメリカ国内でVolae社が起業。 Bacchetta社に追随してこちらもデュアルレーサーを展開していきます。

※…(同社がBacchetta社から独立した企業なのか無関係の独立系なのかは分かりませんが、製品のラインナップを見る限りではBacchetta社の影響が濃いのではないかという事が見て取れます)

(何故か日本では知名度があまり高くないVolae…)
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こうしてRANS社はアメリカンリカンベントのパイオニア企業でありながら、デュアルレーサーでは完全に後塵を浴びる立場になってしまいました…。

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話が長くなりましたが、RANS社がForce5を開発するに至った背景には、このように差し迫った事情がありました。 実際、同社H.P.のライブラリーに残されている当時の論説(特に#13・#14・#21)を読んでみると、新展開の局面に出遅れた大手企業が巻き返そうと必死になっている時に特有の焦りが感じられます。

この状況を打破すべくRANS社も2004年にデュアルレーサーをリリースした訳ですが、その第一弾では単なるコピー商品に甘んじるのではなく、先行者達を分析した上で飽くまで自社の独自性を強く打ち出せる車種に仕上げたあたりは流石だと思います(件の論説#21では「Force5は並居るハイレーサー達の中でも一匹狼だ」と表現しています…)。

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発売までに二度・発売後の年末にも一度と計三回も長文の論説を発表しており、その中で「名前の由来は軽量で、速く、扱い易くて、優れたハンドリングを有しており、かつ最高の品質を備えているという〝五つの力を持つ者″という事に由来しており、それは軽快なRocketと同系でより軽量なV-Rexとは全くの別物で、ロードバイク用のコンポーネンツを備えており、V2-Formulaを上回る巡航速度を持つ、前後650Cホイールのデュアルレーサーを目指して開発された」と明記されているこのForce5…。

持ち前の航空技術を生かして「フレームのチューブ一本一本に極めて多くの思考を込めた」と件の論説の中で言い切るだけあって、Force5のフレームワークは実に秀逸な構造に仕上がっています。
そして実車を見るほどに高い製造技術が要求されたであろう事が見て取れるあたりに、この車種が同社にとって単なる初のデュアルレーサーという訳ではなく、かなりの意欲作であった事が窺えます。

それにも拘らずForce5は僅か四年で廃盤となり、原材料は同じクロモリ製ながらモノチューブ・スティックフレームに置き換えられた後継モデルの F5-PRO へとバトンタッチしてその役目を終えました。

(後継車種のF5-PROは事実上Bacchettaのコピーモデルになっちゃったよ…)
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何故でしょう!?

※…(↑ギレン・ザビではない)

確かに当時のRANS社では元々ある程度のサイクルで製品のリニューアル・モデルチェンジが行われていたようです。 しかしながらForce5がマイナーチェンジではなく後継機種のF5-PROへとフルモデルチェンジして、渾身の作とも言えるトラスフレームをああもあっさりと廃止してモノチューブ・スティックフレームへと移行してしまった事がどうも腑に落ちませんでした…。

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ここから先の情報は少ないので類推が多くなりますが…

Force5はアレックス・モールトン程ではないにしてもY字型トラス構造という複雑なフレーム構成になっています。 フレームの各部材をCNCマシンによって高い精度でカッティング・処理していたとは言え、太いメインチューブの片側のみに繊細なトラス部を有しており双方の口径に大きな差がある事から、その口径の差が生む張力の差故に溶接時の熱収縮で歪みが生じ易く、歩留まりの悪さ・コストの高騰に悩まされていたのではないかと思わずにいられません。

※…(溶接やロウ付けに詳しい人には説明の必要もないとは思いますが、溶接やロウ付けは治具さえ使えば歪みを皆無にできるというものではありません。 部材の張力は質量や肉厚などの大きさにある程度比例する為、溶接される各部材の大きさや肉厚に大きな差がある場合は放熱時に発生する収縮作用によって小さい側の部材が大きい側の部材の張力に負けてしまい、歪みが発生し易くなってしまいがちです。 自転車業界での具体例を挙げると、アレックス・モールトンのトラスフレームには歪みが付き物なので、高度に精通しているプロショップでは組み立てる前に全てのネジ山にタップを立て直したり、場合によってはフレームの歪みを修正する事もあると聞いた事があります)。

(赤いトラスフレームが映える〝2号車″。 もしこれが〝オリジナル″だったら、まさしく〝テスタロッサ″だったんだろうなぁ…)
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その事を裏付けるかのように、後継モデルの F5-PRO が登場した時にはその発表時の論説で「コストを抑えて価格に反映させた」と明記されています。 でもForce5自体はXP・LEの両グレード共に決して高価ではありませんでしたし、F5-PRO がそれほど安価だったとも思えません。

※…(時代の遷り変わりと共に昔と比べてクロモリ鋼管がさほど安価な原材料ではなくなり、その一方でアルミ合金管がさほど高価な原材料でもなくなってきた事も少なからず影響しているのでしょうか? やがてF5-PROも廃盤・モデルチェンジされてアルミ合金製モノチューブ・スティックフレームのRIFLEへと道を譲り、このRIFLEは今尚現役の長寿モデルとなっています)

Force5は歩留まりが悪くてコスト問題を抱えていたのではないかというのはあくまで個人的な推測の域を出ませんが、件の論説を読んだ上で鑑みた限りではあながちハズレでもないだろうと思っています(特に#13・#14の直後に#58を読むと愕然とします)。
そしてもしこの推測が当たっているのであれば、件の論説の中で述べられていた「ノウハウの深さに裏付けられて深く考え抜かれた上で生み出された奥が深い構造物は、奥が深くて多岐に亘る優れた機能を併せ持つ」という考えを具現化した高性能なフレームが売りだったForce5は、因果な事にその奥が深い構造故の歩留まり・採算の悪さによって自らを滅ぼしてしまったという事になると解釈できます…。

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結局、端的に言えばForce5はオーバークオリティに近い車種でした。 これまでに見た限りではアライメント・他の精度面に問題を抱えている実車はなく、本当に厳しい品質管理に合格した物だけが出荷されていたのは間違いないと思われます。
前述の通り歩留まりが悪くて商業レベルでの採算的に見合わなかった事が廃盤・モデルチェンジに至った理由なのだとしたら、あまりにも勿体無い事だと言わざるを得ません。
所有してみてその秀逸さを身に沁みて感じている立場としては、値上げしてでも継続して欲しかったとさえ思うほどです。

※…(本音を言えば今の愛車とは別に、もう一台650Cか26インチのスタンダード仕様XPグレードかLEグレードを中古で買い求めたいところなのですが、スタンダード仕様のまま完成車として輸入された個体は盛豚が知る限りでは関東に二台と関西・九州に一台しか見当たりません…)

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誤解のないように強調しておきたいのですが、今回の前・中・後編を通じて述べている話はどれが正解でそれ以外は間違っているとかいう類の話ではありません。 工業製品という物には正解が無数にありその一つ一つが「最適解の中の一つ」に過ぎないからです。
つまり「Force5はリカンベント・レーサーにおける最適解の中の一つである」という事を意味しているだけであって、他の車種について言及するモノではありません。

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また前編の冒頭でも述べましたが、自分の愛車が対象に含まれる車種を持ち上げるような文章を書くのは自画自賛に近いモノがありますので、秀逸な車輌である事は分かっていたものの当初はあまり気が進みませんでした。

しかしながらたった五台しか生産されなかった上にその約半数が数奇な運命を辿って何処へともなく消えたり廃棄されてしまったりして、図面もノウハウも失われた今となっては復刻する事さえ適わなくなってしまった不遇なNAKAGAWA・LORO-NLシリーズがそうであったように、この RANS Force5 もまた 「このままロストテクノロジーとして消えてしまうのはあまりにも惜しい」 と感じられるモノがあります。
正直に言ってトップレーサーのフレーム材質にCFRP製の物が増えつつある今日にあってさえ、復刻してもう一度販売してほしいという思いを禁じ得ません。

(もうNAKAGAWA・LORO-NLシリーズが新たに作られる事はない…)
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航空工学を駆使して生み出された RANS Force5 の秀逸なフレームワークと、その配分効果がもたらす抜群のトラクションや荷重については、〝未来への遺産″の一つとして数えるのに相応しいと感じた事から、この車種についても今の内に自分なりの私見を書き綴っておこうと思い至った次第です。

そして夢に思い描く事くらいは許されるのであれば、是非このフレームワークをトロイテック・レボリューションと同系のドライカーボンで再現して、究極の到達地とも言えるレベルのトラクションを味わってみたいという気がする一方で、「やっぱクロモリだよな…(笑)」と心のどこかでニヤニヤしている自分がいます。

※…(今日の自転車業界ではアップライト・ロードレーサーを中心に、カーボンシートを二・三枚張り巡らした上から樹脂で成型しただけの〝プラスチックフレーム″を〝カーボンフレーム″と称して高額で販売するケースが横行しています。 確かにCFRPの略称だと言えばそう言えなくもありませんがしかし、個人的には「それは欺瞞であり、カーボンファイバーを成型する接着剤として最低限の量の樹脂を混入しているだけという本物のカーボンファイバー系素材を使った物のみが〝カーボンフレーム″と呼ばれるべきだ」と思うのです。 そういう意味ではトロイテック社やシュリッター社や九州のとある個人ビルダーさんによるフレームは数少ない〝カーボンフレーム″の例だと言っていいでしょう。 異論があるという方には一度トロイテック・レボリューションかシュリッター・アンコールか童夢社のレーシングカーのどれかの実車を間近に見て触ってみる事をお勧めします)

絶対的な走行性能では最新鋭のCFRP製リカンベント・レーサーに対抗するべくもありませんが、アップライト・ロードレーサーにもそのようなオーナー層が今尚いらっしゃるように、もはや過去の物になりつつあるクロモリ製フレームのリカンベント・レーサーにあってもこうした個性の光るレーサーを見出しては、その独特の乗り味を楽しみながら付き合っていくというのもまた一興というものではないでしょうか。

(RANS Force5保存会が今発進する!?)
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願わくばこのフレーム構造と駆動方式が何方かリカンベントの製作に携わる人の目に留まり、模倣か何らかの形でこのノウハウが受け継がれん事を祈りながら、他のForce5オーナー諸氏と供にこの珠玉の一台を乗り続けて行きたいと思います…。

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コメント

相変わらず深いですね!
それにしてもすっかりF5命やないですか(笑)
純正マシンをもう一台欲しいと聞いた時にはビックリしましたw
ロー好きとしては再びM5に返り咲いて欲しい気もします(笑)
希少なクロモリF5が関西に4台も居ると言うのも面白いなあ。
一番最初に手放してしまいそうですが・・・(笑)

>Yおかさん
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今日(おっと、日付が変わってしまったので昨日ですね…)も能勢へパトロールに行ってきたのですが、Force5はあらゆる意味で私にマッチしていると感じますね。
Force5改700は下駄を履かせる事で絶対的な走行性能が嵩上げされていますけど、それとは別にもう一台バランスが良くて手の内に入り込むような650Cまたは26インチ仕様が欲しいところです。
もうこれ以上自転車を増やす事はないと思いますが、あるとしたらForce5スタンダード仕様かNAKAGAWA・LORO-NL3が手に入る時でしょうね(二年前のあの時はYおかさんのForce5改700を本気で狙っていたんですけど、元鞘に収まっちゃいましたからねェ…w)
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LM5は平地での走りはいいのですけど、こちらはやっぱり根がトラックレーサーですね。 公道で走らせるには常に様々なリスクに曝され続けて、やせ我慢を強いられると感じます(特に私のLM5の場合はパワー効率だけを優先して突き詰め過ぎたせいもありますけど…)。
ローレーサーしか持っていなかった頃は苦に感じる事も無かったというか、自分がやせ我慢しているという自覚はありませんでしたけど、Force5に乗るようになって「如何に自分が今まで無意識の内にやせ我慢を強いられ続けていたのか」を痛切に感じるようになりました。
平地で自動車の交通量が多い場所で追い越される時はローレーサーの方が安全な場面もありますので、LM5に乗らないという訳ではありませんけど最近では殆んど出番がありませんから、たまに乗る事があっても近所のCR専用車と化しています。(笑)
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これら二台での経験を通じて、かつてアルティ君が理想的なリカンベント・レーサーの探求を続けた果てに見出した答えがF5-PROだった事や、各地でトップクラスのローレーサーのオーナーさん達が次々にハイレーサーへと軸足を移して行った理由が、少し分かったような気がします。

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