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『RALLY CARS 16』(三栄書房)

〝グループBラリー究極の狂気″の二つ名を持つランチア・デルタS4は、グループBラリーというカテゴリーを悲劇と失敗の代名詞として決定付けると共に、人間の手に負えない怪物と化して誰にも止められなくなったそのカテゴリー自体に終止符を打ちました。

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ランチア・デルタS4…。 このマシンに関しては言いたい事が山程あったのですが、その全てを述べようとすると徹夜しても読み終わらない程の膨大な文章になってしまいますし、書き記す必要がある訳でもないので止めておきます。

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海外のジャーナリストにかなりの人脈を持っていると思われるこの出版社の出版物については個人的に高く評価しており、今回の本についても発行されるのを心待ちにしていました。
これまで同社の出版物では他社では掲載しないような「不都合な真実」に目を背ける事なく記述して、本当の意味で取材対象に真摯に向き合う姿勢に好感を持っていたのですが、今回の本については「知られざる事実」を掲載してはいるものの「不都合な真実」がそれほど記述されておらず、まとまりが良いというか美談的に仕立てられているのが少々物足りなく感じられました。

デルタS4について詳しい話(の内のイイ話)はこの本に書いてありますので、興味のある方は手にとって読まれる事をお勧めします。 そして盛豚はこの本には書かれていなかった事について述べたいと思います。

(やっぱデルタS4の闇については歴史の彼方に葬られる運命なのかなぁ…)

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WRCにおけるグループBカテゴリーを知る日本人のファンには、一言で言うなら「(羨望の意味での)凄い」という感想を持っている人が多いらしいのですが、競技界ではその多発した事故や犠牲者の数から「失敗」として受け止められています。
しかしながらその「不都合な真実」というべき歴史に目を背けて風化させる事なく今日に至るまで語り継いでいるあたりに、失敗を重く受け止めているという真摯な姿勢が感じられます。
こういうところが欧米の「モータースポーツ文化」と呼ばれて一つの文化であると認められている所以なのではないでしょうか。

(デルタS4といえばトイヴォネン。 彼はもう帰らない…)

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デルタS4については日本国内で誤った情報が広まってしまい、多くの誤解があると言われています。

特に「デルタS4がサーキットでF1と同等のタイムをマークした」などというのはその典型的な例で、実際には「デルタS4がショートサーキットでのテスト走行で好タイムをマークした事」と、「同じコースを別の雨の日にヘビーウェットの路面でF1マシンがテスト走行をした時のパッとしないタイムが、晴天時のデルタS4のタイムに比べて、少ししか速くなかった事」が、日本人ファンの記憶の中でごちゃ混ぜになって出来上がった都市伝説だというのは、その筋では有名な話です…(そもそもモータースポーツにおいて晴天時のタイムと雨天時のタイムが比較の対象にならない事については言うまでもありません)。

(デルタS4 :「いくら何でもそこまで速くねェよ…(笑)」 )

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「不都合な真実」に目を背けずにデルタS4を言葉で言い表すと、「スペック上では際立っていても、閃きや思いつきで理論上〝優れている″・〝凄い″とされるアイデアを何でもかんでも詰め込んだからといって、必ずしも相乗効果が出るとは限らない。 詰め込んだ物事の数だけ単純な足し算のように性能は上がったりはしない。 要はバランスが大事なのだという事を象徴している車両」なのかもしれません。

ちなみに当時のワークスドライバーであるマルク・アレン氏やミキ・ビアシオン氏が、以前同じ出版社の出版物に掲載されていた同じ記者によるインタビュー記事で述べていましたが、「ターボラグが3秒位あって いつになったらブースト圧の主軸がスーパーチャージャーからターボチャージャーへ切り替わるのかが、全く把握できなかった事」や、「高圧の燃料ポンプが排気タービンのすぐ傍に取り付けられていて、いつ火ダルマになるか分かったものではなかった事」や、「挙動が安定せず真っ直ぐにすら走らなかったのでライン取りもできないから、とにかくクラッシュしない為にはコースの中央にいるようにするしかなくて、思うように走れない車両だった事」や、「パワーステアリング用ポンプの動力源をエンジンではなく前輪のドライブシャフトから取っていたので、低速域で速度が落ちるほどハンドルが重くなる事(速度が落ちてパワステ用ポンプの稼働率が下がると油圧が抵抗になってしまうので、最大でパワステなしのハンドルの10倍位ハンドルが重くなります…。 デルタS4がヘアピンカーブでスピンターンをする動画が皆無なのはこのせいです)」や、「これら以外にもデルタS4はこれまでに乗ってきた他のラリーカーとは違って、とにかく理不尽な構造が多い車両だった事」、そして「そんな恐ろしい車両に乗り込まなければならない事に、毎回深刻な気持ちと恐怖感を感じていた事」という両氏の証言については、何故か今回の本には記載されていませんでした…。

(後継車のランチアECV1(仮名)040は完成度の高い車両だったけれど…)

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決してランチア・デルタS4を悪く言いたいとかネガテイブな事ばかりに目を向けようとしているとかいうつもりはありません。
しかしながら物事は都合の良い部分ばかりに目を向ければ良いというものではなく、まして運転には責任という物が求められますので、人の命を乗せて走る車両ともなれば乗り手も作り手も(ある意味 第三者も)その長所と短所の両方を含めた総合的な特性という物をしっかりと把握しておくべきだと思っています。

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こうして我々がその教訓を真摯に受け止める事もまた、グループBラリーの「不都合な真実」を語り継ぎ後世に伝えたモータースポーツ文化の意義の一つなのではないでしょうか。

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