ライカⅠfと トプコール5㎝ f3.5 で撮り調べ
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ライカⅠfは個人的に初めて使う機種ではありますが、バルナックライカという意味では以前使っていたライカⅡfという経験上の比較対象があるので、それを叩き台にしてボディーとレンズの両方に不具合がないかどうかをチェックすることにします。
とりあえず同じ構図のまま 絞りは開放から最大絞りまで数通り(レンズのテスト)・シャッタースピードは最高1/500秒〜最低1/25秒まで数通りで撮り比べる他(ボディーのテスト)、順光や逆光で撮り比べてハレーションの出具合を試したり(レンズのテスト)、赤い被写体や青い被写体や木造の建築物・石・コンクリート製の被写体・植物の被写体・金属製の被写体などの再現性を試したり(レンズのテスト)、順光方向と逆光方向のそれぞれの方向にカメラを向けた状態でシャッターダイヤルを巻き上げたりして(カメラのシャター幕のテスト)、思いつく限りの初期トラブルをあぶり出す為のテストは一通りやってみました。
初期テストの撮り調べはボディーとレンズの状態や特性を確認する意味でとても重要なので、現像同時プリントに出すにあたってプリント時の補正を一切かけないこと・失敗しているコマも含めて全コマをプリントすること・具体的に現像作業をするラボなどを指定します。
外注仕上げになるので日数はかかりますが、仕上がりの質に定評があるので期待しながら待ちました。
待つこと二週間で現像同時プリントが上がってきました。
今回のテストの一番の目的はボディー個体の機械的な精度やレンズの光学的な面に不具合がないかをあぶり出すことであり、二番目の目的はレンズが持つ発色や再現性などの特性を探ることです。 その為には露出選択にミスがあっては話にならないので、露出計がわりにデジカメを使って測光しながら撮影しました。
ボディーのライカⅠfもレンズのトプコール5cm f3.5(前期型)も戦時〜戦後に作られた半世紀以上前の物ですし、特にレンズについてはカラーフィルムがなかった時代の物なので実はあまり期待はしていなかったのですが、仕上がってきたプリントは予想を大きく裏切ってくれました。 良い意味で…。
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撮り調べの条件は日射しが強い日の陽が高い時間帯を選んだのですが、下の写真では日射しが直撃するアジサイと日陰になる軒下とが混在するので、アジサイの周辺が露出オーバーで白抜けしてしまうか 軒下の日影部分が露出アンダーで黒くツブれてしまうか、どちらかの破綻が予想される(両方が発生する可能性もある)厳しい条件の構図で撮ってみました。
まぁ どちらか一方に露出が引きずられてダメになっているだろうと予想していたのですが、露出がオーバー気味な箇所の発色には微かにアンバーがかかるも白抜けは起こらず、花の発色は露出オーバーで飛んでしまうことなくキチンと出せています。 そして露出がアンダー気味になる日陰部分もそれほど黒ツブれにならず漆喰の壁の質感もちゃんと再現できていました。
コントラストの強さを過度に追求している近代的なレンズでは考えられないようなコントラストのバランスの良さです。
逆にアンダー気味な箇所の発色にはやや青みがかかった発色が感じられますが、たいていの 人は言われなければ気づかないレベルだと思います。
これまでの経験では、やや青みがかった発色を出すことのあるレンズの場合だと赤系の発色や木造建築物の発色と質感の再現性が苦手だったり、絞り具合を開放気味にしたり絞り込んだりするとその振り幅に発色が影響を受けすぎる傾向のある物がよくあったのですが、このレンズにはそのような傾向は感じられず安定感がとても強いと感じました。
青みを感じる被写体や日陰のフレーミングの画でも、日向や他の色の箇所まで色被りを起こして引きずられてしまうことはありませんし、再現性の性能を測るのにはもってこいの被写体である水や石の画でも、秀逸な映りを見せてくれました。
またこの場面では機械式シャッターが苦手とする低速に近いシャッタースピードを強いられるのですが、これらの画を見る限り不具合は全く感じられません。
強い日差しの下でわざと露出を補正せずに撮ったのですが発色が特定の色に偏ってしまうことはなく、また発色が露出の強さに負けて草花やコンクリート建造物の発色が飛んでしまうこともありませんでした。 このコントラストに偏りがない抜群の安定感は特筆ものだと思います。
特に発色バランスの良さはとてもモノクロ時代に作られたレンズとは思えないモノがあり、後のカラーフィルム・一眼レフ・AF全盛期の意外とピーキーで得手不得手のあるレンズ群と比較しても高く評価できる要素はいくらでもあるほどです。
今回のフィルム一本分で露出に不具合が出たコマは一枚もありませんでした。 これは自分が所有する一眼レフのAE機・AF機の時代にありがちな 過度のコントラスト追求による弊害(レンズが持つコントラストの表現の振り幅が過度に広く誇張されているのでフィルムの階調のキャパを超えてしまい、その結果オーバーとアンダーの箇所で露出と発色と再現性がフッ飛んだりツブれたりしてしまうことが頻発する欠点)を抱えた近代レンズ群と比べても 余裕で勝てる成績です。
もちろん日向ではシャッタースピードが高速側になりがちでしたけど、この速度域でも中間域でもボディーがよい仕事をしてくれました。 どうやらシャッタースピードの精度については安心していいみたいです。
今回の撮り調べの総評を一言で言い表すならば、とても戦時〜戦後のモノクロ時代に作られたレンズ&ボディーとは思えない結果でした。
特にレンズの発色については何かと過剰接待で誇張が過ぎる補正まみれの画像を繰り出してくるデジカメ時代の物との比較でもない限り全く問題はありませんし、偏りのないバランスの良さという意味でこのトプコール5㎝ f3.5(前期型)は AE機・AF機の全盛期のレンズ群と比べてもたいていのレンズよりは安定していて使いやすいと感じます。
外装に欠けがあったので光学系の軸や描写に影響が出ていないか念の為のチェックをすべく 意図的に開放域で何コマも撮影してみたのですが、作動の面でも映りの面でも特に問題らしい問題は見当たりませんでした。 そればかりか これまで一部の好事家の間でトプコン社のレンズの評価がやけに高いのを不思議に思っていたのですが、その理由の一端を垣間見たような気がしました。
また日向で何度か逆光方向を向いてシャッターダイヤルを巻き上げた時のコマをチェックしたところ、以前ライカⅡfの時に発生したようなシャッタ幕の劣化による筋状の感光痕は見当たりませんでした。 実はこれをとても恐れていたのですが これで一安心です。
撮り調べ初期テストはこれにて完了。
安心して撮りに行くとしましょう。
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こういう仕上がりを見ていると、技術の違いはあれど当時の技術者から色々問いかけられている気がしてきますね。
投稿: しょうやん | 2020年6月30日 (火) 00時35分
>しょうやんさん
撮影機材にしろ自転車にしろ自動車にしろ、数十年前の製品を使っていると数十年の時を経て過去の技術者のメッセージを受け取っているような気がする時がありますね。
投稿: 盛豚 | 2020年7月 1日 (水) 17時14分